2025年12月03日

大人の発達障害と仕事のつまずき|困りごと6つと支援制度を解説
大人の発達障害が仕事で明らかになる理由
発達障害は生まれつきの脳の働き方の違いです。
子どもの頃には周囲のフォローや環境の配慮によって特性が目立たず、個性の一つとして捉えられていたケースも少なくありません。しかし、進学や就職で社会に出ると状況は一変します。人間関係は複雑になり、様々な人とコミュニケーションをとることが求められ、相手の表情からすべきことを察したり、周囲に合わせて行動したり、仕事を計画的に進行するなど社会性を要求されるようになります。
このようなときに、潜在的に持っていた発達障害の特性が浮かび上がってきて、人間関係や仕事でつまずいてしまい、そのとき初めて発達障害に気づくケースがあります。大人になってから発達障害になるわけではなく、大人になってから発達障害が明らかになるのです。
職場で起こりやすい6つの困りごと
発達障害の特性は、職場環境において様々な困難として現れます。

1. 注意力の維持とケアレスミスの多発
注意欠如・多動症(ADHD)の特性を持つ方は、注意し続けることが難しく、作業にミスを生じやすい傾向があります。
集中ができず、ケアレスミスが多い。忘れ物や落とし物、遅刻が多い。頼まれていた仕事や約束を忘れる。こうした症状は、本人の努力不足ではなく、脳の働き方の違いによるものです。興味のないことへの集中力が続かず、ひとつのことに集中するとほかのことに気が回らないという特徴もあります。
2. コミュニケーションの困難さ
自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持つ方は、言葉や視線、表情、身振りなどで他人とコミュニケーションをとるのが苦手です。
悪気はないのに、言動によって相手を怒らせてしまう。相手の表情や身振りから、相手の気持ちを汲み取れない。興味のある分野の話をすると夢中になって話してしまう。相手と会話がかみ合わない。一方的なコミュニケーションをとってしまう。こうした困難は、他人に対する興味が薄く、相手の気持ちや状況を理解することが苦手であることから生じます。
3. 整理整頓とスケジュール管理の苦手さ
整理整頓が苦手で、約束や時間を守ることが難しいという困りごとがあります。
ADHDの特性として、スケジュール管理ができず、デスク周りが常に散らかっている状態になりやすい傾向があります。重要な書類を置き忘れたり、大事な仕事の予定を忘れたりすることで、周囲からは「何回言っても忘れてしまう人」と評価されてしまうことも少なくありません。
4. 臨機応変な対応の困難
ASDの特性を持つ方は、特定のことに強い関心を持っていたり、こだわりが強かったりします。
指示が曖昧な仕事の対応ができない。仕事をする中で臨機応変に業務ができない。複数の業務を並行して取り組むことができない。こうした困難は、ルーティンワークを好み、予期しない変化に対応することが苦手であることから生じます。面接が苦手で就職活動がうまくいかないという課題も抱えやすい傾向があります。

5. 感覚過敏による職場環境への適応困難
音や匂いなど感覚の過敏さを持ち合わせている場合があります。
オフィスの蛍光灯の音、エアコンの音、周囲の話し声などが気になって集中できない。特定の匂いに敏感で体調を崩してしまう。こうした感覚過敏は、周囲からは理解されにくく、「神経質すぎる」と誤解されることもあります。しかし、これは発達障害の特性の一つであり、本人にとっては深刻な問題です。
6. 衝動的な発言や行動
ADHDの多動性・衝動性の特性として、人が話している間に発言してしまうことがあります。
場に相応しくない発言をしてしまう。貧乏ゆすりが止められない。落ち着きがなく、待つことができない。こうした行動は、本人の意思とは関係なく現れるものですが、周囲からは「マナーがない」「配慮が足りない」と受け取られてしまうことがあります。
発達障害の特性を活かせる強みもある
困りごとばかりに目を向けがちですが、発達障害の特性は強みにもなります。
ASDの特性を持つ方は、ルールを守る真面目さや細やかさがあり、行動に裏表がなく誠実です。視覚的(又は聴覚的)な記憶力が優れており、特定分野に関する知識が豊富で、一つのことをコツコツと集中して行うことができます。ADHDの特性を持つ方は、気配り名人で、困っている人がいればだれよりも早く気づいて手助けすることができます。
発達障害の特性は、環境との相互作用によって欠点になることも長所になることもあります。苦手なことは工夫することによって生きやすくなることもありますし、得意なことで大きな力を発揮する人も少なくありません。
仕事での困りごとへの具体的な対処方法
職場での困りごとには、具体的な対処方法があります。

注意不足への対処
作業結果の見直しを徹底することが重要です。
文書で指示を受けたり、チェック表を活用して、自分でミスを発見できる状態を作ることが効果的です。集中する時間と休憩する時間を時間で区切って取り組む。机の上に物を置かないなど、集中しやすい環境を整える。ToDoリストを目立つ場所に貼って、こまめに確認をする。こうした工夫により、注意不足による困りごとを軽減できます。
整理整頓への対処
整理だけをおこなう時間を設けることが大切です。
正しい保管状態の写真を撮ったり、保管場所を図にして、それをみながら整理する習慣をつける。書類をデータ化する。バッグインバッグを活用して、必要なものは常にひとまとめにしておく。リマインダーアプリやタスク管理ツールを活用する。こうした具体的な方法により、整理整頓やスケジュール管理の困難を改善できます。
コミュニケーションへの対処
話す前にいったん頭の中で考えを整理して言葉を選ぶことが重要です。
自分の発言を客観的に見る習慣をつける。相手の気持ちを理解するためのソーシャルスキルトレーニングを受ける。こうした訓練により、コミュニケーションの困難を軽減できます。症状が悪化しないよう、適度な睡眠・休憩を取ることも大切です。運動によって多動を減らせる場合があるため、出勤前にジョギングなどの時間を設けるのも効果的です。
利用できる支援制度と相談窓口
発達障害のある大人が利用できる支援制度は充実しています。
経済的・医療的支援制度
**自立支援医療制度**は、心身の障害を除去・軽減するための医療に関する医療費の自己負担額を軽減する公費負担の支援制度です。
通常、医療保険による医療費の自己負担額は3割ですが、自立支援医療制度を利用すれば、収入によって異なりますが、基本的に自己負担額を1割に軽減することができます。**障害者手帳**を所持することで、障害があることの証明が可能となり、さまざまな支援を受けられます。種類は、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳があります。
**障害年金**は、病気やケガ、障害などによって仕事や生活などに支障を生じている場合に、年金加入者が受給できる支援制度です。発達障害・精神疾患で生活に困難を生じている場合も受給の対象になります。一般的な年金は高齢者にならなければ受け取れませんが、障害年金は現役世代でも受給できることが特徴です。
**傷病手当金**は、病気やケガで仕事を休んだ場合に、健康保険から支給される手当です。休職中の生活を支える重要な制度となります。

相談できる支援機関
**市町村保健センター**では、発達障害に関する相談を受け付けています。
**発達障害者支援センター**は、発達障害のある人とその家族が豊かな地域生活を送れるように、保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携し、地域における総合的な支援ネットワークを構築しながら、発達障害のある人とその家族からのさまざまな相談に応じ、指導と助言を行っています。
**医療機関(病院・クリニック)**では、専門医による診断と治療を受けることができます。精神科専門医による質の高い医療を提供し、カウンセリングは経験豊富な心理士が担当します。発達障害スクリーニング検査により、自閉症(ASD)、アスペルガー障害、ADHDの診断も可能です。
**就労移行支援事業所**は、障害のある人が一般企業への就職を目指すための訓練や支援を行う施設です。ビジネスマナーや職業スキルの習得、就職活動のサポート、職場定着支援などを提供しています。就職率が高く、最短4ヶ月程度で就職に至るケースもあります。
職場での支援制度
診断書・傷病手当等の書類作成が可能で、復職に向けた療養アドバイスを受けることができます。
障害者雇用制度を利用することで、企業側に配慮を求めることも可能です。障害のある方がその方に適した環境で働くことを目指す上でも、様々な企業についての正確な情報を得ることは大切です。障害者就職面接会やワークフォーラムなどのイベントも定期的に開催されており、企業の取組や方針を知ることで、より良い就労や雇用の促進に役立てることができます。
まとめ:一人で抱え込まず専門家に相談を
大人の発達障害による仕事のつまずきは、決して珍しいことではありません。
注意力の維持、コミュニケーション、整理整頓、臨機応変な対応、感覚過敏、衝動的な行動という6つの困りごとは、適切な対処方法と支援制度の活用により改善できます。発達障害の特性は、環境との相互作用によって欠点にもなれば長所にもなります。まずは、発達障害のある人もその周囲の人も、発達障害について正しく理解することから始めましょう。
自立支援医療制度、障害者手帳、障害年金、傷病手当金などの経済的・医療的支援制度が充実しています。市町村保健センター、発達障害者支援センター、医療機関、就労移行支援事業所など、相談できる窓口も多数あります。一人で抱え込まず、専門家に相談することが、より良い職業生活への第一歩となります。
発達障害に関する詳しい情報や専門的なサポートについては、精神科専門医による診療を受けることをお勧めします。シモキタよあけ診療内科では、発達障害スクリーニング検査や公認心理士によるカウンセリング、復職支援など、包括的なサポートを提供しています。下北沢駅から徒歩1分という好アクセスで、完全予約制によりプライバシーにも配慮した診療を行っています。お気軽にご相談ください。
著者プロフィール
「シモキタよあけ心療内科 院長 副島正紀」

〜こころに、よあけを〜
【資格・所属学会】
認知症診療医
日本精神神経学会 精神科専門医
日本精神神経学会 精神科指導医
精神保健指定医