2026年1月15日

休職中の過ごし方が回復を左右する理由
うつ病や適応障害で休職を余儀なくされたとき、「どう過ごせばいいのか」という不安を抱える方は少なくありません。
実は、休職期間中の過ごし方次第で、回復のスピードや復職後の再発リスクが大きく変わることが明らかになっています。休職は決して「怠けている時間」ではなく、心身を回復させるための大切な治療期間なのです。
多くの患者さんが「休んでいるのに罪悪感を感じる」「何もしてはいけないのでは」と悩まれます。しかし、適切な休養と段階的な活動の再開こそが、確実な回復への道筋となります。

休職期間を3つのステージで理解する
回復には段階があります。
それぞれの時期に適した過ごし方を理解することで、焦らず確実に回復を進めることができます。精神科医療の現場では、休職期間を「休養期」「回復期」「復職準備期」の3つに分けて考えることが一般的です。
休養期(休職開始~約1ヶ月)
この時期は「とにかく休む」ことが最優先です。
1日中横になっていても問題ありません。むしろ、身体が休息を求めているサインとして受け止めましょう。うつ状態では脳の扁桃体が過活動になっており、「休んではいけない」「怠けている」という自責感が強く出ることがあります。しかし、これは病気の症状であり、あなた自身の本当の考えではないのです。
睡眠時間が長くなることも、食欲が落ちることも、この時期には自然な反応です。重要なのは、重大な決断(退職や離婚など)を絶対にしないこと。病気の影響で判断力が低下している時期ですから、大きな決断は回復してから行うべきです。
回復期(約1~3ヶ月)
十分な休養と適切な治療により、少しずつ「動きたい」という気持ちが芽生えてきます。
ただし、焦りと意欲は全く別物です。この時期の活動再開は、必ず主治医と相談しながら進めましょう。起床時間が午前11時頃になり、1日2食程度食べられるようになってきたら、軽い活動を始める目安となります。
部屋の片付けや10分程度の散歩から始めるのが理想的です。ただし、体力はマラソン後のように消耗していますから、「散歩は10分まで」「家事は30分まで」と時間を区切ることが大切です。やり過ぎは回復を遅らせる原因になります。
復職準備期(約3ヶ月以降)
生活リズムが整い、日中の活動量が増えてきたら、職場復帰に向けた準備を始めます。
図書館で3時間過ごす、散歩を1日30分行うなど、通勤や勤務をシミュレーションした活動を取り入れていきます。この時期には、職場とのコミュニケーションも徐々に再開し、復職後のサポート体制について話し合うことも重要です。

休養期の理想的な1日のルーティン
生活リズムを整えることが、自律神経のバランス回復につながります。
休職初期から意識したい基本的なルーティンをご紹介します。ただし、これはあくまで「理想形」であり、できる範囲で取り入れることが大切です。完璧を目指す必要はありません。
起床時間を固定する
毎日同じ時間に起きることで、体内時計がリセットされます。
職場復帰を見据えた時間帯(例えば午前7時)を目標にしましょう。休日も含めて起床時間を固定することが、生活リズム安定の第一歩です。「あと5分…」と二度寝したくなる気持ちは誰にでもありますが、できるだけ同じ時間に起きる習慣をつけることが重要です。
朝日を浴びる
起床後すぐにカーテンを開け、太陽の光を浴びましょう。
朝日を浴びることで体内時計がリセットされ、約14時間後に自然な眠気が訪れるようになります。これは睡眠薬に頼らない自然な睡眠リズムを作る最も効果的な方法です。カーテンを開けるのが難しい場合は、思い切ってカーテンを開けたまま寝るのも一つの方法です。
冷水で手と顔を洗う
洗顔時には、顔だけでなく手も冷水で洗いましょう。
身体の表面温度を下げることで、深部体温との温度差が生まれ、覚醒のスイッチが入ります。足の裏を冷たいタオルで拭くのも効果的です。この小さな習慣が、1日のスタートを切るきっかけになります。
同じ時間に朝食を摂る
起床時間と同様に、食事時間を固定することも重要です。
例えば平日の朝食が7時30分なら、休日も同じ時間に食べることで、生活リズムが安定します。最初は食事のバランスや量よりも、「同じ時間に食べる」ことを優先しましょう。よく噛んで食べることで、さらに覚醒効果が高まります。
軽い運動を取り入れる
朝食後に一息ついたら、軽い運動を行いましょう。
天気の良い日は20~30分程度のウォーキングやジョギングがおすすめです。太陽の光を浴びながら体を動かすことで、交感神経が活性化され、日中を活動的に過ごせるようになります。雨の日は、家の中でスクワットなどの筋トレでも構いません。無理は禁物ですが、少しずつ体を動かす習慣をつけることが大切です。

回復期から復職準備期の過ごし方
回復が進んできたら、段階的に活動範囲を広げていきます。
ただし、この時期も「焦らない」ことが何より大切です。一歩ずつ確実に前進することで、再発のリスクを最小限に抑えることができます。
趣味活動を再開する
読書、絵画、料理など、自分の好きなことに没頭する時間を持ちましょう。
趣味活動は、生活にメリハリをつけるだけでなく、ストレスから距離を置く効果もあります。新しい趣味を始めるのも良いでしょう。新しいことへのチャレンジは、自信やモチベーションの向上につながります。ただし、最初から完璧を目指さず、楽しむことを優先してください。
人との交流を徐々に増やす
家族との交流から始め、徐々に友人との連絡を再開しましょう。
人との交流は大きなストレスを生む可能性があるため、まずは近しい人から、短時間の電話やLINEなどから始めることをおすすめします。SNSでの多数の人との交流や、長時間の会食などは、もう少し回復が進んでから検討しましょう。
図書館やカフェで過ごす
家以外の場所で過ごす練習も重要です。
図書館で2~3時間過ごす、カフェで読書をするなど、「外出して一定時間過ごす」経験を積み重ねましょう。これは通勤や勤務のシミュレーションになります。体調が良い日を選んで、無理のない範囲で実践してください。
リワークプログラムの活用
復職準備が本格化したら、リワークプログラムの利用を検討しましょう。
リワークプログラムでは、就労に必要なスキルを再習得したり、ストレス耐性を高めたりすることができます。通勤訓練コースでは約1ヶ月間、職場で必要なスキルの勉強を自習しながら、安定して通所できる状態を整えていきます。リワーク標準コースでは、休職の経緯を振り返り、再休職予防を目指す取り組みを行います。
休職中に絶対避けるべきNG行動
回復を妨げる行動を知っておくことも重要です。
良かれと思ってやっていることが、実は回復を遅らせている可能性もあります。以下のNG行動には特に注意しましょう。
重大な決断をする
休職中に「仕事を辞める」「離婚する」などの重大な決断は絶対に避けてください。
うつ状態では判断力が低下しており、本来のあなたの考えとは異なる決断をしてしまう可能性が高いのです。大きな決断は、必ず回復してから、冷静に考えられる状態で行いましょう。
生活リズムを崩す
「休職中だから」と夜更かしや昼夜逆転の生活を続けるのは避けましょう。
生活リズムの乱れは自律神経のバランスを崩し、回復を大幅に遅らせます。休日も含めて、できるだけ同じ時間に起床・就寝することを心がけてください。
過度な活動や家事
「休んでいるのだから家事くらいは」と考えて、やり過ぎてしまう方が多くいます。
しかし、回復期の体力は想像以上に低下しています。家事は30分まで、散歩は10分までなど、時間を区切って活動することが大切です。「もう少しできそう」と感じても、そこで止めることが再発防止につながります。
SNSの過度な利用
SNSで他人の充実した生活を見ることで、焦りや劣等感を感じてしまうことがあります。
休職中は、SNSの利用を控えめにすることをおすすめします。特に、多数の人との交流や、ネガティブな情報に触れることは避けましょう。
アルコールへの依存
「眠れないから」とアルコールに頼るのは避けてください。
アルコールは一時的に寝つきを良くしますが、睡眠の質を大幅に低下させます。また、抗うつ薬との相互作用もあるため、飲酒は主治医と相談しましょう。

復職後も続けたい再発防止の習慣
復職は回復のゴールではなく、新たなスタートです。
復職後も継続的なケアが必要であり、特に最初の1年間は「安全運転」で進むことが大切です。再発を防ぐための習慣を身につけましょう。
定期的な通院を継続する
復職後も2~3週間に1回は診察を受けましょう。
復職後6ヶ月が経過したところで減薬を検討し、減薬完了後は2ヶ月に1回程度の診察に切り替えます。さらに半年程度経過を見て、病状の再燃がなければ終診を目指します。自己判断での通院中断は再発リスクを高めるため、必ず主治医と相談しながら進めましょう。
ストレス対処法を身につける
認知行動療法やマインドフルネスなど、ストレスに上手に対処するスキルを学びましょう。
カウンセリングや自助グループに参加することで、同じ経験を持つ人との交流も得られます。ストレスを感じたときの対処法を複数持っておくことが、再発防止につながります。
生活リズムを維持する
休職中に整えた生活リズムを、復職後も維持しましょう。
特に、起床時間と就寝時間の固定、規則正しい食事、適度な運動は継続することが大切です。仕事が忙しくなっても、これらの基本的な生活習慣を崩さないよう意識してください。
職場でのサポート体制を活用する
復職後は、上司や産業医と定期的に面談を行いましょう。
最初はフレキシブルな勤務形態から始め、徐々にフルタイムへ移行することも検討してください。無理をせず、自分の状態を正直に伝えることが、長期的な就労継続につながります。
まとめ|休職は回復への大切なステップ
休職中の過ごし方は、回復の速度と質を大きく左右します。
休養期には十分に休み、回復期には段階的に活動を増やし、復職準備期には職場復帰をシミュレーションする。この3つのステージを意識しながら、焦らず確実に回復を進めることが大切です。
重大な決断を避け、生活リズムを整え、無理のない範囲で活動する。そして、復職後も継続的なケアを忘れない。これらの習慣が、再発を防ぎ、長期的な健康維持につながります。
休職は決して恥ずかしいことではありません。むしろ、自分自身と向き合い、回復への道を歩む勇気ある行動です。一人で悩まず、主治医や専門家のサポートを受けながら、あなたのペースで回復を目指してください。
休職中の過ごし方や復職支援についてお悩みの方は、ぜひ専門医にご相談ください。
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著者プロフィール
「シモキタよあけ心療内科 院長 副島正紀」

〜こころに、よあけを〜
【資格・所属学会】
認知症診療医
日本精神神経学会 精神科専門医
日本精神神経学会 精神科指導医
精神保健指定医