2025年12月02日

適応障害と休職後の再発防止策|職場復帰で気をつけたい6つのポイント
適応障害からの復職、不安を感じていませんか?
適応障害で休職した後、職場復帰を控えて不安を感じている方は少なくありません。
「また同じように体調を崩してしまうのではないか」「職場の人たちの目が気になる」「仕事についていけるだろうか」……こうした思いが頭をよぎるのは、決して珍しいことではないのです。
適応障害は環境によるストレスが原因で発症する精神疾患であり、ストレス要因から離れることで症状が改善される特徴があります。しかし、同じ職場に復帰する場合、再発のリスクを懸念するのは当然のことでしょう。実際、復職後に体調不良が再発し、再休職に至るケースも存在します。
精神科専門医として多くの復職支援に携わってきた経験から申し上げると、適切な準備と対策を講じることで、再発リスクを大幅に軽減することが可能です。復職は単なる「職場への復帰」ではなく、「新しい働き方を構築するプロセス」として捉えることが重要になります。
適応障害の復職で直面する課題とは
復職を考える際、多くの方が共通して抱える課題があります。
まず、久しぶりの業務に対する不安です。休職期間中に業務の手順や仕様を忘れてしまったり、緊張からミスを繰り返してしまう可能性があります。適応障害になりやすい方は責任感が強く、完璧を求める傾向があるため、できないことでさらにストレスを感じやすいのです。
次に、職場の人間関係への懸念があります。上司や同僚からどのような目で見られるのか、気を遣われることで逆に心苦しさを感じるのではないか……こうした不安は、復職への大きな心理的障壁となります。

さらに、症状の再発への恐怖も見逃せません。適応障害は再発率が高いとされており、復職後に同じストレス環境に戻ることで症状が再び現れる可能性があります。特にうつ病を併発していた場合、再発を繰り返すごとに再発率が高まるというデータもあり、慎重な対応が求められます。
生活リズムの変化も課題の一つです。休職中に夜型の生活になっていたり、体力が低下していたりすると、仕事中心の生活に適応することが困難になります。早朝出勤や夜勤などのシフト勤務がある場合、心身への負担はさらに大きくなるでしょう。
復職前に整えるべき3つの準備
1. 心身の十分な回復を最優先する
復職を焦ってはいけません。
適応障害と診断されたら、まずはストレスの原因となる環境から離れ、心と身体を十分に休ませることが何より重要です。臨床心理士や公認心理師によるカウンセリングを受けながら、症状の改善を目指しましょう。
一般的に、適応障害の場合、ストレスの原因を生活から取り除くことで約6ヶ月が経過する前には症状が改善するケースが多いとされています。ただし、これはあくまで目安であり、個人差があることを理解してください。症状が軽い場合は3ヶ月~6ヶ月で復職が可能なケースもありますが、重度の場合は1年以上かかることもあります。
この期間で最も大切なのは、自身の回復を最優先に考えることです。復職を焦らず、休息することに専念しましょう。
2. ストレスの原因と対処法を明確にする
適応障害を乗り越えるためには、ストレスに対する適応力を養うことが不可欠です。
現在起こっている問題とどのような症状が現れているかを整理し、ストレスを感じる場面での思考や行動パターンを把握することで、ストレス耐性を高めることができます。ストレスの原因が分からないと、職場復帰後の再発・再休職リスクが高まるからです。
例えば、特定の仕事内容や対人関係が原因になっているならば、復職面談時に担当業務の変更や配置転換などを上司と交渉できるようになります。ストレスの原因に気づけることで、「それと距離を取るにはどうすればいいのか」や「避けられない時には、どのようにすればいいのか」などを事前に考え、必要なアクションを講じられるようになるのです。
3. 生活リズムと体力の回復に取り組む
復職後の職場定着には、生活リズムや体力の回復が欠かせません。
治療のために夜型のライフスタイルになったり、寝たきりで体力が低下したまま復職すると、体調不良になるリスクが高まります。日中に体を動かすようにすると、体力を取り戻しながら夜に寝付きやすくなり、生活リズム改善にも役立ちます。
ヨガやウォーキングなどの軽い運動から始め、徐々に活動量を増やしていくことをお勧めします。最初は週に数回、短時間から始めて、無理のないペースで進めていきましょう。
職場復帰で気をつけたい6つのポイント

ポイント1:段階的な復職プランを立てる
いきなりフルタイム勤務に戻るのは避けましょう。
復職計画では、リハビリ勤務を取り入れるのが一般的です。例えば、最初の1ヶ月間は時短勤務とし、少しずつ業務に慣れるステップを設けます。職場復帰を焦ることでストレスが再び増加し、再発を招くリスクがあるため、勤務時間や仕事内容の調整を十分に話し合うことが重要です。
具体的には、短時間勤務や軽作業から始め、体調を考慮しながら少しずつ通常の勤務に戻していくことが推奨されます。主治医や職場と相談しながら、無理のないペースで復職を進めることが大切です。
ポイント2:職場との事前調整を丁寧に行う
復職前には、職場に対して自分の状態や復職に向けた計画を共有する必要があります。
連絡の際には、職場が求める条件を確認し、自分の勤務可能な範囲を伝えることが大切です。復職時期、復職時の配属先や仕事内容、慣らし勤務(時短勤務)の導入などについて、具体的に話し合いましょう。
診断書の提出も必要になります。主治医と相談し、復職に向けた診断書を提出することで、職場側も適切なサポートを準備することができます。診断書には、患者の基本情報、診断名、症状の程度、日常生活や業務への影響、必要な治療内容や休養期間、就業制限の必要性などが記載されます。
ポイント3:ストレス対処法を身につける
復職後のストレスに対処できる力を習得することが、再発防止の鍵となります。
認知行動療法などを通じて、ストレスを感じる場面での思考パターンを見直し、より適応的な考え方や行動を身につけることができます。例えば、「完璧にできなければ意味がない」という思考を「できる範囲で最善を尽くせばよい」という柔軟な思考に変えていくことで、ストレス耐性が高まります。
また、リラクセーション技法(深呼吸、自律訓練法など)を習得しておくことも有効です。ストレスを感じた時に自分で対処できる方法を持っていることは、大きな安心材料になります。
ポイント4:周囲の理解と協力を得る
復職後も継続的なサポートが必要です。
上司や同僚に自分の状況を適切に伝え、必要な配慮をお願いすることは決して恥ずかしいことではありません。もちろん、すべてを詳細に話す必要はありませんが、「体調管理のため定期的な通院が必要」「業務量の調整をお願いしたい」など、具体的な要望を伝えることで、周囲も適切なサポートがしやすくなります。
また、産業医や保健師などの産業保健スタッフとも定期的に面談し、職場での状況を共有することをお勧めします。第三者の視点からアドバイスを受けることで、問題の早期発見・早期対応が可能になります。

ポイント5:定期的な通院と治療の継続
復職したからといって、すぐに治療を終了してはいけません。
復職後も定期的に主治医の診察を受け、体調の変化を報告することが重要です。症状が安定していても、復帰の初期段階では通院を継続し、定期的に状態をチェックすることが推奨されます。特に復職後1ヶ月間の勤務状況は、再発のリスクを判断するうえで重要な指標となります。
薬物療法を受けている場合は、自己判断で服薬を中止せず、医師の指示に従って徐々に減量していくことが大切です。急激な中止は症状の再発を招く可能性があります。
ポイント6:自分自身の変化に気づく力を養う
再発の兆候を早期に察知することが、再休職を防ぐ鍵となります。
「最近、眠れない日が続いている」「食欲が落ちている」「仕事に行くのが億劫になってきた」など、自分の心身の変化に敏感になることが大切です。こうした兆候に気づいたら、早めに主治医や産業医に相談しましょう。
また、信頼できる家族や友人に、自分の様子を客観的に見てもらうことも有効です。本人が気づかない変化を周囲が指摘してくれることもあります。
リワークプログラムの活用も検討を
復職に向けた準備として、リワークプログラムの活用も効果的な選択肢です。
リワークとは、専門の医療機関や支援施設で行われる職場復帰支援プログラムであり、復職後のストレスに耐えうる力を習得することを目指します。軽い業務や模擬職場でのトレーニングを通じて、復職に向けた準備を進めることができます。
リワークプログラムでは、生活リズムの改善、ストレス対処法の習得、コミュニケーションスキルの向上など、多角的なアプローチで復職をサポートします。多くの方が6ヶ月~1年を目安にリワークプログラムを活用し、職場復帰に向けてトレーニングを行っています。
専門的なスタッフがサポートすることで無理のないペースで進められるのが特徴であり、復職後の定着率も高いとされています。

再発を防ぐために大切なこと
復職後も油断は禁物です。
適応障害は再発しやすい疾患であるため、継続的なセルフケアと環境調整が欠かせません。以下のポイントを意識して、長期的な健康管理を心がけましょう。
1. 無理をしない働き方を確立する
完璧を求めすぎず、「できる範囲で最善を尽くす」という姿勢を持つことが大切です。残業を控え、休日はしっかり休むなど、ワークライフバランスを意識しましょう。
2. ストレスサインを見逃さない
睡眠の質、食欲、気分の変化など、日々の心身の状態をモニタリングする習慣をつけましょう。小さな変化に早く気づくことで、大きな問題になる前に対処できます。
3. 相談できる場所を確保する
主治医、産業医、カウンセラー、信頼できる同僚や友人など、困ったときに相談できる相手を複数持っておくことが重要です。一人で抱え込まないことが、再発防止の鍵となります。
4. 自分なりのストレス解消法を持つ
趣味、運動、リラクセーション技法など、自分に合ったストレス解消法を見つけ、定期的に実践しましょう。ストレスを溜め込まない生活習慣が、心の健康を守ります。
5. 環境が変わらない場合は転職も視点に
職場環境の調整を試みても改善が見られない場合、転職や退職を選択することも一つの方法です。自分の健康を最優先に考え、無理に同じ環境にとどまる必要はありません。
まとめ:一歩ずつ、焦らず進むことが大切
適応障害からの復職は、決して簡単な道のりではありません。
しかし、適切な準備と対策を講じることで、再発リスクを軽減し、安定した職場生活を送ることは十分に可能です。復職は「元の状態に戻る」ことではなく、「新しい働き方を構築する」プロセスだと捉えてください。
心身の十分な回復、ストレス対処法の習得、段階的な復職プラン、職場との調整、継続的な治療とサポート……これらすべてが、成功する復職のために欠かせない要素です。一つひとつのステップを丁寧に踏んでいくことで、あなたらしい働き方を見つけることができるでしょう。
そして何より大切なのは、「焦らないこと」です。回復のペースは人それぞれであり、他人と比較する必要はありません。自分の心と身体の声に耳を傾けながら、一歩ずつ前に進んでいきましょう。
もし復職に関して不安や疑問がある場合は、専門医に相談することをお勧めします。シモキタよあけ心療内科では、精神科専門医による診療と、復職に向けた丁寧なサポートを提供しています。診断書の作成や傷病手当の手続き、復職に向けた療養アドバイスなど、あなたの状況に合わせた支援が可能です。
詳しくは、シモキタよあけ心療内科の公式サイトをご覧ください。下北沢駅から徒歩1分という好アクセスで、完全予約制のため待ち時間も少なく、安心して受診いただけます。あなたの復職を、私たちが全力でサポートいたします。
著者プロフィール
「シモキタよあけ心療内科 院長 副島正紀」

〜こころに、よあけを〜
【資格・所属学会】
認知症診療医
日本精神神経学会 精神科専門医
日本精神神経学会 精神科指導医
精神保健指定医