食欲不振と睡眠障害 – うつ病の重要なサイン|シモキタよあけ心療内科|下北沢のメンタルクリニック・心療内科・精神科

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食欲不振と睡眠障害 – うつ病の重要なサイン

食欲不振と睡眠障害 – うつ病の重要なサイン|シモキタよあけ心療内科|下北沢のメンタルクリニック・心療内科・精神科

2025年8月19日

食欲がなく、夜もよく眠れない。

このような症状が続くとき、多くの方は胃腸の不調や単なる疲れと考えがちです。しかし、これらの症状は実は心の健康状態と深く関わっていることが少なくありません。特に食欲不振と睡眠障害が同時に現れる場合、うつ病のサインである可能性を考慮する必要があります。

児童精神科の診察室の様子

精神科医として多くの患者さんを診てきた経験から、この二つの症状の関連性とうつ病との繋がりについて解説します。食欲不振と睡眠障害は、うつ病の初期段階で現れることが多く、早期発見・早期治療のための重要なサインとなります。

うつ病とは – 心と体の疾患

うつ病は単なる「気分の落ち込み」ではありません。

うつ病は、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)のバランスが崩れることで発症する精神疾患です。日本では100人に約6人が生涯のうちにうつ病を経験するとされており、決して珍しい病気ではありません。女性は男性の約1.6倍発症しやすいという統計もあります。

うつ病の症状は精神面と身体面の両方に現れます。精神症状としては、気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、集中力の低下、自責感などがあります。一方、身体症状としては、食欲不振、睡眠障害、疲労感、頭痛、肩こりなどが挙げられます。

特に注目すべきは、うつ病患者の多くが最初に身体症状を訴えることです。精神的な症状よりも先に、食欲不振や睡眠障害といった身体症状が現れることがあります。このタイプは「仮面うつ病」や「身体症状型うつ病」と呼ばれることもあります。

食欲不振とうつ病の関係

食べる意欲が湧かない日が続くとき、それはうつ病のサインかもしれません。

うつ病では、脳内の食欲をコントロールする神経伝達物質の働きが低下することで、食欲不振が生じます。特にセロトニンやドーパミンの機能低下は、食事から得られる喜びや満足感を感じにくくさせます。その結果、「何を食べても美味しくない」「食事に興味が持てない」といった状態になります。

うつ病による食欲不振の特徴としては、以下のようなものが挙げられます:

  • 食事に対する興味や関心の低下
  • 食べても味がしない、または味覚の変化
  • 食事中の集中力低下
  • 体重の減少(2週間で5%以上の減少が目安)
  • 栄養不足による倦怠感や体力低下

ただし、うつ病の一部のタイプでは逆に過食が見られることもあります。特に非定型うつ病(新型うつ病とも呼ばれる)では、過食と体重増加が特徴的な症状として現れることがあります。

児童精神科クリニックの待合室

私の臨床経験では、食欲不振を主訴に内科や消化器科を受診した患者さんが、検査では異常が見つからず、最終的にうつ病と診断されるケースが少なくありません。胃腸の不調と思っていた症状が、実は心の問題だったというわけです。

睡眠障害とうつ病の深い関係

眠れない夜が続くとき、それは単なる不眠症ではないかもしれません。

うつ病における睡眠障害は非常に特徴的です。日本睡眠学会総合専門医の調査によると、うつ病患者の約80%が何らかの睡眠の問題を抱えているとされています。睡眠は心身の健康を維持するために不可欠な生理機能であり、その乱れはうつ病の重要なサインとなります。

うつ病における睡眠障害の特徴としては、以下のようなものが挙げられます:

  • 入眠困難(寝つきが悪い)
  • 中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)
  • 早朝覚醒(朝早く目が覚めて、その後眠れない)
  • 熟睡感の欠如(十分に眠っても疲れが取れない)
  • 過眠(非典型うつ病では、逆に過度に眠る症状が現れることもある)

特に「早朝覚醒」はうつ病に特徴的な睡眠パターンです。午前3時頃に目が覚め、再び眠ることができなくなります。その後横になっていると6〜7時頃に再び眠ってしまい、目覚めたら午前10時を過ぎているというパターンがよく見られます。

睡眠障害とうつ病は「鶏と卵」の関係にあります。うつ病が睡眠障害を引き起こす一方で、長期間の睡眠障害がうつ病の発症リスクを高めることも知られています。国内で行われたコホート研究によれば、入眠困難がある人では抑うつ症状が起こりやすいことが報告されています。

食欲不振と睡眠障害が同時に現れる理由

なぜこの二つの症状が同時に現れるのでしょうか?

食欲不振と睡眠障害は、脳内の同じ神経伝達物質系の異常によって引き起こされることが多いのです。特にセロトニンとノルアドレナリンは、食欲の調整と睡眠・覚醒のサイクルの両方に関与しています。

最新の研究では、特にノルアドレナリンの役割が注目されています。自責感が強く、不眠や食欲低下などの症状を示すうつ病患者では、視床のノルアドレナリントランスポーター(NAT)密度が健常者に比べて約30%高いことが判明しました。NATはノルアドレナリンの再取り込みを行う重要な分子で、その密度の増加は注意・覚醒機能の高まりと相関しています。

また、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌異常も、食欲不振と睡眠障害の両方に影響を与えます。うつ病患者ではコルチゾールの日内変動が乱れ、夜間に高値を示すことがあります。これが睡眠の質を低下させるとともに、食欲にも悪影響を及ぼすのです。

さらに、うつ病では体内時計をコントロールする視交叉上核の機能不全も見られます。これにより概日リズムが乱れ、睡眠障害と食欲不振の両方が引き起こされるのです。

あなたは夜眠れず、朝食も喉を通らない日が続いていませんか?

うつ病の早期発見のために – 見逃しやすいサイン

うつ病は早期発見・早期治療が重要です。しかし、初期症状は見逃されやすいものです。

うつ病の初期段階では、典型的な「気分の落ち込み」よりも先に、以下のような身体症状が現れることがあります:

  • 疲れやすさ(十分に睡眠をとっても疲労感が続く)
  • 食欲の変化(特に食欲低下)
  • 睡眠パターンの変化(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)
  • 原因不明の頭痛や肩こり
  • 消化器症状(胃の不快感、便秘や下痢)
  • 性欲の低下

これらの症状が2週間以上続く場合は、うつ病の可能性を考慮する必要があります。特に食欲不振と睡眠障害が同時に現れる場合は、うつ病を疑う重要なサインです。

うつ病のセルフチェックとして、以下の質問に答えてみてください:

  • 毎日の生活に喜びや楽しみを感じなくなった
  • 気分が落ち込み、憂うつな気分が続いている
  • 食欲が明らかに減少または増加した
  • 睡眠パターンが変化した(不眠または過眠)
  • 疲れやすく、気力が低下している
  • 集中力や決断力が低下している
  • 自分には価値がないと感じる、または罪悪感を抱いている
  • 死について考えることがある

これらの項目のうち5つ以上が2週間以上続いている場合は、専門医への相談を強くお勧めします。

うつ病は「心の風邪」と言われることもありますが、適切な治療を受けなければ慢性化・重症化する可能性があります。早期発見・早期治療が回復への近道です。

うつ病の治療アプローチ

うつ病の治療は、症状の程度や個人の状況に応じて異なりますが、一般的には以下のアプローチが取られます。

薬物療法

うつ病の治療では、抗うつ薬が主に使用されます。抗うつ薬は脳内の神経伝達物質のバランスを整える働きがあり、症状の改善に効果を発揮します。

抗うつ薬には様々な種類がありますが、現在主に使用されているのはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)です。これらの薬は従来の三環系抗うつ薬に比べて副作用が少なく、安全性が高いとされています。

ただし、抗うつ薬は服用を開始してもすぐに効果が現れるわけではありません。通常、効果が実感できるまでに2〜4週間程度かかります。また、症状が改善した後も、再発予防のために一定期間(通常6ヶ月〜1年程度)の服薬継続が推奨されます。

精神療法

薬物療法と並行して行われるのが精神療法です。特に認知行動療法(CBT)は、うつ病の治療に効果的であることが科学的に証明されています。

認知行動療法では、ネガティブな思考パターンを識別し、より健全で現実的な考え方に変えていくことを目指します。例えば、「すべてが自分のせいだ」「何をやっても上手くいかない」といった思考の癖を見直し、より柔軟な思考ができるようにトレーニングします。

その他にも、対人関係療法や問題解決療法など、様々な精神療法があります。患者さんの状態や好みに合わせて、適切な療法を選択することが重要です。

生活習慣の改善

うつ病の治療では、生活習慣の改善も重要な要素です。特に食事と睡眠のリズムを整えることは、症状の改善に大きく寄与します。

規則正しい食事を心がけ、栄養バランスの良い食事を摂ることで、脳の機能を支える栄養素を補給します。特にオメガ3脂肪酸(青魚に多く含まれる)やビタミンB群、葉酸などは、うつ病の症状改善に効果があるとされています。

また、就寝時間と起床時間を一定にし、良質な睡眠を確保することも重要です。日中の適度な運動や日光浴も、体内時計の調整に役立ちます。

休養と環境調整

うつ病の治療において、十分な休養を取ることは非常に重要です。必要に応じて休職や休学を検討し、心身の回復に専念する時間を確保することが望ましいでしょう。

また、ストレス要因を可能な限り取り除くなど、環境の調整も重要です。家族や職場の理解と協力を得ながら、回復しやすい環境を整えていきましょう。

まとめ – 食欲不振と睡眠障害からうつ病を見逃さないために

食欲不振と睡眠障害は、うつ病の重要なサインです。これらの症状が2週間以上続く場合は、うつ病の可能性を考慮し、専門医への相談を検討しましょう。

うつ病は早期発見・早期治療が重要です。適切な治療を受けることで、多くの患者さんが症状の改善を経験しています。治療には薬物療法、精神療法、生活習慣の改善などがあり、患者さんの状態に合わせた総合的なアプローチが取られます。

食欲不振や睡眠障害に悩んでいる方、あるいはご家族や周囲の方で気になる変化がある方は、ぜひ精神科や心療内科の専門医にご相談ください。

シモキタよあけ心療内科では、うつ病をはじめとする様々な精神疾患の診療を行っています。食欲不振や睡眠障害でお悩みの方も、お気軽にご相談ください。精神科専門医による質の高い医療と、一人ひとりに合わせた治療プランをご提供いたします。

心の健康は、身体の健康と同じく大切なものです。早めの対応が、より良い回復への第一歩となります。

詳しい情報や予約方法については、シモキタよあけ心療内科の公式サイトをご覧ください。

著者プロフィール 

シモキタよあけ心療内科 院長 副島正紀」

〜こころに、よあけを〜

【資格・所属学会】

  • 日本精神神経学会 精神科専門医
  • 日本精神神経学会 精神科指導医
  • 精神保健指定医
  • 認知症診療医

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