2024年11月28日
はじめに
パーソナリティー障害というのはDSM-5というアメリカ精神医学会によれば、10種類に分類され、その特徴もさまざまあります。 一つ一つを説明するのは膨大な内容になりますので、臨床でもっともよく遭遇する境界性パーソナリティー障害について解説します。
どのような病気か
まずパーソナリティー障害というのは、個人の考え方や行動が、人よりも偏っていることで社会不適応を起こしてしまっている病気を指します。 平たく言ってしまうと、とがった性格の人、というイメージです。
境界性パーソナリティー障害のことは医療者同士では英語名でボーダーと呼んだりしますが、よく一般社会でメンヘラ、とよばれるのはこの境界性パーソナリティー障害のことを指すのではないかなと思います。境界性パーソナリティー障害は心の奥底に慢性的な空虚感を抱えており、どんなに仲がいい友達や恋人、家族としても、「どこかここではないような、寂しさ」のようなものを感じています。その寂しさを埋め合わせるように、衝動的な恋愛関係をくりかえしたり、相手を振り回すような行動をしてしまいます。
主な症状
主な症状を4つ挙げたいと思います。
①見捨てられ不安
恋愛のパートナーから距離を置かれたり、嫌われることを極端に恐れます。仲良くなったとしても「いずれ見捨てられる」と思い、不安に頭を支配されます。 「相手が浮気してないか」など過剰に考え、自分に向けた愛情が本物だと実感できるまであらゆる手を使い確認しようとします。 突然深夜に電話がかかってきたと思ったら、「いまから死ぬ」というように自殺をほのめかしたりしてしまい、相手を強く揺さぶります。
②不安定な情緒
次に不安定な情緒です。本人の心の中ではネガティブな感情がひしめいているので、情緒はいつも不安定です。よくジェットコースターのような感情と言われることもあり、 気分が落ち込んで憂鬱だと思ったら、急に幸せに満たされハッピーになるような情緒の波があります。この波を自分では躁うつ病なんじゃないか、と思い受診される方もいます。
時に怒りが制御できなくなり、自分や相手に暴力的な行動にでることがあります。これを行動爆発と呼びます。 相手に対する暴言だけではなく、自分に当たり、リストカットやODといって薬を過量服薬したりしてしまうこともあります。
③理想化とこきおろし
次は理想化とこきおろしです。自分の中で相手を理想的だと思っているにもかかわらず、ささいな相手のふるまいから「価値がない人」まで印象が急降下します。この激しい落差から相手は戸惑い、「自分が何をしたんだろう」と混乱してしまいます。
④同一性障害
次に同一性障害です。アイデンティティと呼ばれるような自己像が不安定なことが多いです。自己と他者の境界があいまいであり、そのため他者との距離感が近すぎたりします。またそのこころの奥底では常に空虚さを感じています。
これらの症状から、境界性パーソナリティー障害の患者さんは自分自身でも苦しみを感じますが、パートナーなど近くの人もその激しい感情や行動に振り回されることになり苦しくなります。 外来では10代~30代の患者さんが中心ですが、40代以降で突然治るというわけではありません。大人になると、感情のコントロールにある程度自分で対処できるようになり、目立つような行動をしないように努力されているような印象です。
治療
治療は基本的に心理療法が中心となります。患者さんは「うつ病」「躁うつ病」「不眠」など、症状にフォーカスして治療希望されるケースが多いように思います。診察する中でパーソナリティー障害が疑われた場合に、その症状の背景にある考え方や行動の偏りを徐々に共有していき、その問題点を受け止めてもらうような直面化を行います。
ただし、医師患者関係が築かれる前に、患者さん本人の理想化とこきおろしの症状が現れ、外来に来ることをやめてしまうことも少なくありません。私自身も体感したことはありますが、治療する中で患者さんが治療者に対してとても親密な関係性を築こうとすることがあります。 その中で、患者さんによく思ってもらいたいという患者が生まれることがあります。 これはプライベートな関係であれば問題ないかもしれませんが、医師患者関係においては距離感を非常に理性に保つ必要があります。患者さんのことを必要以上にかわいそうだと思い、診察に時間をかけたりすると、それはすでに巻き込まれている状況になります。
境界性パーソナリティー障害を治療するうえで一番大事なことは、どのような言葉をかけるというよりも、いかにこの治療における距離感を扱うかだと思います。 薬物療法としては、抗精神病薬や気分安定薬を使用します。 リスペリドン、オランザピン、クエチアピンなどの抗精神病薬はイライラや爆発的な感情を抑えるように働き、バルプロ酸Naなどの気分安定薬は感情の波を抑えるように働きます。
気分が落ち込むからと言って抗うつ薬や抗不安薬を漫然と使用すると、焦燥感が悪化してしまったり、自傷行為やODが悪化してしまう可能性があります。 「眠れない」「気分が落ち込む」という訴えだけで対症療法的な薬を漫然と出してしまうと問題をさらに深刻にしてしまうので、注意が必要です。
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【院長 副島正紀】 精神科専門医 精神科指導医 精神保健指定医 認知症診療医 –X