2025年10月08日

ADHDの症状に悩んでいるけれど、どの診療科に行けばいいのか迷っていませんか?精神科と心療内科、どちらを選べばよいのでしょうか。
ADHDは「注意欠如・多動症」と呼ばれる発達障害の一種です。集中力の欠如や衝動性、多動性などの特徴があり、日常生活に様々な影響を及ぼします。
私は精神科医として多くのADHD患者さんの診療に携わってきました。適切な診断と治療によって、症状の改善や生活の質の向上が期待できる疾患です。
ADHDの症状と受診を検討すべきタイミング
ADHDの主な症状は「不注意」と「多動・衝動性」の2つに分けられます。
不注意の症状には、細かいミスが多い、物忘れが頻繁にある、集中力が続かない、指示を聞き逃すことが多いなどがあります。一方、多動・衝動性の症状としては、じっとしていられない、過度におしゃべりをする、順番を待てない、考える前に行動してしまうなどが挙げられます。
これらの症状が長期間(6ヶ月以上)続き、日常生活に支障をきたしている場合は、専門医への受診を検討すべきでしょう。
具体的には、以下のような状況が当てはまる場合は受診を検討してみてください。
- 仕事や学業のパフォーマンスが著しく低下している
- 人間関係のトラブルが頻繁に起きる
- 忘れ物や遅刻が多く、日常生活に支障がある
- 感情のコントロールが難しく、イライラしやすい
- 物事を最後まで完遂できないことが多い
ADHDは子どもの頃から症状がある発達障害ですが、環境によって症状が目立たないこともあります。大人になって社会人としての責任やストレスが大きくなってから気づくケースも少なくありません。
どう思いますか?もしかしたら自分もADHDかもしれないと感じることはありませんか?
ADHDは何科を受診すべきか?
ADHDの診断を受けるには、精神科または心療内科を受診するのが一般的です。どちらの診療科でもADHDの診断と治療が可能ですが、クリニックによって得意分野が異なる場合があります。
精神科とは
精神科は、うつ病や統合失調症、不安障害などの精神疾患を専門的に診療する科です。ADHDなどの発達障害も精神科の診療範囲に含まれます。
精神科では主に精神的な症状に焦点を当て、薬物療法や精神療法を組み合わせた治療が行われます。
心療内科とは
心療内科は、ストレスや心理的要因が原因で身体に症状が現れる「心身症」を専門とする診療科です。自律神経失調症や過敏性腸症候群などの治療を行います。
心療内科でも精神科と同様に、ADHDの診断と治療が可能です。特に身体症状を伴う場合は心療内科が適している場合もあります。
ただし、街のクリニックでは精神科と心療内科を同じ意味で使っていることも多いため、診療科名だけで判断するのではなく、発達障害の診療に対応しているかどうかを確認することが重要です。
精神科と心療内科の違い
精神科と心療内科は似ているようで異なる特徴があります。それぞれの違いを理解しておくと、自分に合った診療科を選びやすくなるでしょう。
主な対象疾患の違い
精神科は主に精神疾患(うつ病、統合失調症など)を対象としています。一方、心療内科は心身症(ストレスによる身体症状)を主な対象としています。
ただし、実際には両者の境界は曖昧で、多くのクリニックでは両方の疾患に対応しています。特にADHDなどの発達障害については、どちらの診療科でも診療可能なケースが多いです。
治療アプローチの違い
精神科では薬物療法を中心に、必要に応じて精神療法や認知行動療法などを組み合わせた治療が行われます。重症例では入院治療も選択肢となります。
心療内科では生活習慣の改善や心理療法を重視し、必要に応じて薬物療法も行います。リラクゼーション療法なども取り入れられることがあります。
ADHDの治療においては、どちらの診療科でも薬物療法と心理社会的治療を組み合わせたアプローチが一般的です。
診療科名よりも、発達障害の診療経験が豊富な医師を選ぶことが何よりも重要です。
ADHD診断のための医療機関選びのポイント
ADHDの診断を受けるための医療機関を選ぶ際は、以下のポイントを参考にしてみてください。
発達障害の診療に対応しているか確認する
すべての精神科・心療内科がADHDの診断に対応しているわけではありません。医療機関のホームページや電話で事前に確認しておくことをおすすめします。
近年では「発達障害専門外来」や「大人の発達障害外来」を設けているクリニックも増えています。こうした専門外来があれば、より適切な診断が期待できるでしょう。
ADHD治療薬の処方が可能か確認する
ADHDの治療薬には、処方できる医師が限られている薬剤があります。例えば、コンサータなどの中枢神経刺激薬は、登録された医師しか処方できません。
治療薬の処方を希望する場合は、事前にその医療機関でADHD治療薬の処方が可能かどうかを確認しておくとよいでしょう。
初診の予約方法や待ち時間を確認する
発達障害の診療を行っている医療機関は混雑していることが多く、初診までに数ヶ月待ちというケースもあります。早めに予約を取ることをおすすめします。
また、初診時には詳しい問診や検査が必要なため、通常の診察よりも時間がかかります。初診にどれくらいの時間を要するか、事前に確認しておくとよいでしょう。
皆さんは、医療機関を選ぶ際にどのような点を重視しますか?アクセスの良さ、医師の専門性、口コミなど、様々な要素が判断材料になりますね。
ADHD診断の流れと検査方法
ADHDの診断は一度の診察では完結せず、複数回の診察や検査を経て行われることが一般的です。診断の流れを理解しておくと、心の準備ができるでしょう。
初診での問診
初診では、現在の症状や困りごと、生活歴、家族歴などについて詳しく問診が行われます。特に子どもの頃からの様子や学校での状況なども重要な情報となります。
できれば学校の成績表や通知表など、子どもの頃の記録があれば持参するとよいでしょう。また、家族や親しい友人など、自分のことをよく知る人に同席してもらうと、より正確な情報提供ができます。
心理検査・発達検査
ADHDの診断には、様々な心理検査や発達検査が用いられます。代表的なものとしては、WAIS(ウェクスラー成人知能検査)やWISC(ウェクスラー児童用知能検査)、CAARS(コナーズ成人ADHD評価スケール)などがあります。
これらの検査は、知的能力や注意力、衝動性などを客観的に評価するために行われます。検査結果は診断の重要な参考資料となります。
診断と治療方針の決定
問診や検査の結果を総合的に判断し、ADHDの診断が下されます。診断基準としては、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)などが用いられます。
診断後は、症状の程度や生活への影響、本人の希望などを考慮して、治療方針が決定されます。ADHDの治療は、薬物療法と心理社会的治療(環境調整、認知行動療法など)を組み合わせて行われることが一般的です。
私の臨床経験では、適切な診断と治療によって、多くの患者さんが症状の改善を実感されています。特に大人になってから診断を受けた方は、「長年の生きづらさの原因がわかってホッとした」と話される方も少なくありません。
ADHD治療の選択肢と効果
ADHDの治療には様々な選択肢があります。それぞれの特徴を理解して、自分に合った治療法を医師と相談しながら選んでいくことが大切です。
薬物療法
ADHDの薬物療法には主に以下の種類があります。
- コンサータ:脳内のドーパミンを増やし、不注意や頭の中の雑音、モヤモヤに効果を発揮します。効果はすぐに現れ、仕事の日だけ服用するなど柔軟な使い方も可能です。
- ストラテラ(アトモキセチン):脳内のノルアドレナリンを増やし、過集中に対して視野を広げる効果があります。効果が現れるまでに1〜3ヶ月かかりますが、不安症状の軽減にも効果があるとされています。
- インチュニブ:α2Aアドレナリン受容体を刺激し、多動性や衝動性、多集中に効果があります。イライラや癇癪、衝動性が強い場合に優先されることがあります。
これらの薬剤はそれぞれ特徴が異なるため、症状や生活スタイル、副作用などを考慮して選択します。また、効果や副作用には個人差があるため、医師と相談しながら自分に合った薬剤を見つけていくことが重要です。
心理社会的治療
薬物療法と並行して、以下のような心理社会的治療も重要です。
- 環境調整:仕事や学習環境を整え、集中しやすい環境を作ります。
- 認知行動療法:非機能的な思考パターンを変え、より適応的な行動を身につけます。
- コーチング:日常生活の管理や目標達成をサポートします。
- 家族療法:家族の理解と協力を得て、より良い関係性を構築します。
薬物療法だけでなく、これらの心理社会的治療を組み合わせることで、より効果的な治療が期待できます。
ADHDの治療は一人ひとり異なります。あなたに最適な治療法を見つけるために、医師と率直に相談してみてください。
まとめ:適切な医療機関選びがADHD治療の第一歩
ADHDの診断と治療を受けるためには、精神科または心療内科を受診するのが一般的です。両者の違いを理解した上で、発達障害の診療に対応している医療機関を選ぶことが重要です。
診断には複数回の診察や検査が必要となりますが、適切な診断と治療によって症状の改善や生活の質の向上が期待できます。
ADHDは脳機能の特性であり、「個性」とも言えるものです。適切な支援や環境調整によって、その特性を活かした生き方も可能です。
もし自分がADHDかもしれないと感じたら、勇気を出して専門医に相談してみてください。診断を受けることで、長年の生きづらさの原因が明らかになり、適切な対処法を見つけるきっかけになるかもしれません。
当院シモキタよあけ心療内科では、精神科専門医による質の高い医療を提供しています。ADHDをはじめとする発達障害の診断・治療にも対応しておりますので、お悩みの方はぜひご相談ください。シモキタよあけで詳細をご確認いただけます。
著者プロフィール
「シモキタよあけ心療内科 院長 副島正紀」

〜こころに、よあけを〜
【資格・所属学会】
- 日本精神神経学会 精神科専門医
- 日本精神神経学会 精神科指導医
- 精神保健指定医
- 認知症診療医